「競馬を悪者にしないために」
今に始まったことはなく、昔からギャンブルから借金、そして犯罪・・・というルートがあって、そのたびに「競馬で多額の借金」という動機が出て、肩身の狭い思いをしてきたものです。
(注)今回の原稿で出てくる「ギャンブル」は、すべて公営ギャンブルを指します(しかも主に競馬と同義)。違法ギャンブルを認めたり勧めたりするものではありません。最初におことわりしておきます。
◆危険な兆候は出ている?
とはいうものの、今はどこで競馬の話題を出しても、他人から眉を顰められるようなことは、ほとんどなくなったと思います。しかし筆者の幼少期、昭和40年代末期あたりまでは、競馬は世間から隠すべき趣味、田舎では極道者レベルの扱いをされることもあったのです。今のように、動物虐待云々の批判はほとんど目にした記憶がなく、白眼視されていた最大の理由は「競馬→借金苦→一家離散or強盗or詐欺」という転落ルート。頻繁にニュースではこうしたケースが扱われていました。レアケースであっても、全国ニュースになることでそのインパクトはかなり大きかった。
競馬は悪という空気を覆したのは、少なくとも筆者が物心ついてからでは国民的英雄となったハイセイコーの登場、そして社会へのアピール度はかなり下がりますが、ほどなく出現したテンポイントだったはず。
これらを契機に、JRAだけでなく競馬関係者、競馬マスコミの努力もあってイメージアップに成功し、競馬は社会権を得られたと思います。それだけに、冒頭で出したような犯罪例を耳にすると、競馬界に身を置くものとしては、どうにも古傷(自分が痛い目に遭ったことがあるという意味ではないです・笑)を刺激されたかのような疼痛を感じる思いもあります。
しかし、人間には確実にギャンブルへの抗いがたい本能的欲求があるのでしょうか、この悪例が前時代の遺物と断言できない状況はもちろん今もあって、しかもあくまで個人的な印象ですが、ここ1,2年はさらにそれが強まっているような感もあるのです。
例えば再生数稼ぎのために、高額の馬券を買ってリアルタイムで的中か否かを見せるLIVEコンテンツをアップするYouTuber。それもかなりの閲覧数を誇っています。かたや真逆、ひとレースの投資はリーズナブルな金額ながら、連鎖的に次々と全レース購入を毎週のように行い、ハズレ続きのダメな日々を面白おかしく描いて、Vログとしてギャンブル中毒的要素を売りにしているYouTuberもいます。これらを娯楽として客観的に見ている分にはいいのですが、若い人たちにとって、依存の呼び水になるおそれも出てきているのではないかと、初老の筆者は老爺心?ながら心配にもなります。
また先日、競馬場から駅まで歩いていると、若い男性グループによる「今日は〇万負けた、バイトまた見つけないと」「来週勝てばチャラにできるんだけどな」のような会話を耳にしました。話の内容からはどうやら大学生の模様。一時的に痛い目に遭って、そこから節度を覚えてくれるならいいのですが、そうならないおそれもあります。大げさな心配かもしれませんが、それでお金に困って闇バイト・・・という、令和の転落ルートに陥る可能性もゼロではありません。
◆ギャンブル依存の最新実態
2024年秋、独立行政法人「国立病院機構」が18000人を対象に実施したアンケート結果が公開されています。その主な結果をまとめてみます。
*過去1年間に公営ギャンブルをしたことがある
男性44.9% 女性23.5%
*依存症疑いを調べるPGSIテストで8点未満だった人(疑いなし)が1か月あたりに換算した場合の、ギャンブルに投じた金額の中央値は9000円
ただし、PGSIテストで8点以上(疑いあり)だった人に絞ると、中央値は6万円にハネ上がる
*中央値6万円該当の人たちの年齢層は40代、30代の順に多い。
また1年間につぎ込んだ金額はパチンコ・パチスロ・競馬の順。
これを性別で分けると、男性はパチンコ43.4%、パチスロ24.5%、競馬11.3%。
女性はパチンコ60.9%、パチスロ17.4%、競馬0%という意外な結果に。女性の方がパチンコへの依存度が高く、競馬が低い。
*依存症疑いのない人は、競馬においてオンライン購入のみが56.8%、実券購入のみが33.7%、両方が9.5%。
依存症疑いのある人は、オンライン購入のみが44.7%、実験購入のみが34.2%、両方が21.1%。
*実際に本人が依存症対策相談所を訪れた経験のあるケースでは、相談件数としてパチスロ35.8% パチンコ33.3% 競馬28.9%(複数回答可)。つぎ込んだ金額の項目の差と比べると、こちらでは競馬がパチスロ、パチンコとほとんど差のないところまで割合を上げている。複数回答なので一概に言えないが、つまり深刻な依存症患者は1つだけでなく、複数のギャンブルに手を出している傾向が見える。
◆ギャンブル自体を取り締まるべきか
このような実態があるのなら、1960年代後半のように「そもそも公営ギャンブル自体に制限を加えるべき」という声が、再燃するかもしれません。
かつて私はそれへの反論として、自動車を引き合いに出していました。事故の犠牲者をゼロにするために、自動車を廃止しろという議論にはならない。だから扱う人の技術や自制心を養うしかないのである・・・という理屈。ただ、ギャンブルは別にこの世に無くなってもかまわないものです。選手や生産者には一大事であっても、自動車が無くなる事態とは違って、社会生活への影響がないことはちょっと考えれば分かります。その意味では車よりお酒に例えるべきなのかもしれません。お酒自体はこの世から無くなると、酒造メーカーが困ることはあっても、一般の生活に滞りを生じることはありません。それどころか酒を起因とした犯罪や病気が無くなるのですから、メリットの方が大きいかもしれないという点も似ています、何より中毒性を持っている点では、なおギャンブルに近いものがあります。
もちろんこれらはただの空想というか、妄想です。お酒も公営ギャンブルも、かなりの金額を毎年国庫に納めているし、そもそも固有の文化的側面も保持しています。国民の一部の享受とはいえストレスを解消するという効果もあるでしょう。だから、月並みな結論になりますが、ファンへの啓蒙を続けていき「良質のギャンブラー(?)」を育てるしかないのだと思います。
今回調べて驚いたのですが、依存症疑いのある人たちの2割弱しか、JRAが依存症対策について詳細な情報とHPにアップしていることを知らないとのこと。これに1度でも目を通していれば、そのうちの数名でも歯止めがかかる可能性はあるのだと思います。馬券をささやかに楽しむ程度の方であっても、一度はお読みになるのがいいでしょう。リンクは以下。
◆ありふれた私的提案として
締めとして、今少しでも自分が依存症に陥る不安をお持ちの方、あるいはこれから馬券を買ってみようかと興味を抱き始めている方に向けて、私が考えるルールを提案してみます。私は中央競馬以外のギャンブルをほとんどしたことがないので、あくまでそこが対象となりますが。
① 1日の投資額を決める
これは基本中の基本だと思います。中央競馬なら基本は土曜と日曜の開催ですが、たとえばそのどちらかだけにして、具体的な金額設定は個々の事情によると思いますが、それでも初心者や不安のある方なら1万円以内が現実的でしょう。
② 1日の撤退額を決める
上に記したように、これだけのお金が無くなったらやめる、という誓いを立てる人は多いと思いますが、私は勝った場合の撤退も決めた方がいいと思います。もし運よく勝つと、アドレナリンが出てさらに大きく賭けてしまったりするものですが、これをするとたいてい負けます。運よく、軍資金を使い切る前に当たって、当初の持ち金を上回ったとしたら、持ち金の2倍になった時点でもう止める、あるいは3倍になった時点で止めるというルールを作るのは意外と効果的だと思います。
③ 買うレースを決める
たとえば9R以降に限定するとか、重賞レースだけにするとか、雨の日は買わないとか、そういう枠を設定するのは大事です。
④ 馬券で勝とうと思わないこと
そう思っていいのは熟練した、かつ自律の精神が強い競馬ファンだけ。初心者や依存不安のある方は、アトラクションの料金を払っているつもりで馬券を買うことです。レジャー先でアトラクションを楽しむ場合、払ったお金は返ってこなくて当然ですね。ギャンブルだと思うから返ってこないとガッカリするのです。もしかしたら何割かでも返ってくる可能性がある、と考えれば、心にかなりの余裕が持てるはずです。負けて熱くなっている自分を自覚した時点で、向いていないと悟ってください。
こうしたルールを守れるなら、そもそも依存症になどならないという声が聞こえてくるようですが、そうなのです。こうしたルールを自分に課せない人間は、馬券を買うことに向いていないのです。だからこれを読んでナンセンスと思った方は、競馬のみならずギャンブルには近づかないほうがいいということなのです。
以前にも書きましたが、レースや馬、騎手といった競馬の主役たちから引き込まれた人たちは、馬券にのめり込んで歯止めが利かなくなるといったことはまずないと思っています。お金はもちろん大事ですが、それに振り回されると人生を悲劇的なものにしてしまう。大好きな競馬が社会悪として糾弾されないために、馬券を買うという行為の本質を、ファン1人1人がいったん立ち止まって見つめる時間があってもいいのではないでしょうか。
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