衝撃の?2027暑熱対策発表
競馬ライターの水上学です。今回も「水上のニュースレター」をお読みくださりありがとうございます。メルマガ未登録の方は、ぜひ無料での配信登録をお願い致します。
◆2027年の夏競馬大改革とは
はじめにおことわりしておきますが、6月1日現在、JRAが正式に2027年の暑熱対策を発表したわけではなく、あくまで「調整中」。ただ以下の内容は、ほぼ各紙が共通して伝えており、過去にこうしたケースでは微調整程度の変更はあっても、その通りに現実化することが大半です。極めて信憑性は高いと思います。
その改革案とはどのようなものでしょうか。すでに報道を通してご存じの方も多いかもしれませんが、その場合は確認ということで。
なお筆者が独自にいろいろ聞いた話から、推測を補っている箇所もあります。
●対象開催は2027年夏の新潟、中京開催計6週間。
●第1R発走を午後3時頃とし、1日7レース施行とする(競馬法の改定が必要)。メインレース施行時刻については検討中。(筆者註・テレビ中継との兼ね合いがあるので、おそらくメインは第2Rになるのでは)
終了時刻は午後6時20分前後を想定。
●これにより120レース前後が削減される計算になるが、平日開催も考慮しつつ、他場や他日に振り分けて施行し、開催日数と年間レース数は維持する。(筆者註・3日間開催の増加か)
ただし例年9月前半まで行っていた3歳未勝利戦は、時期を繰り上げて実施することでレース数を確保し、その分終了時期を早める。
●北海道開催は従来通りの発走時刻で1日12R施行を実施。ただし函館と札幌を連続開催とせず相互開催とし、函館4週→札幌3週→函館3週→札幌4週の日割とする。函館が年6週から7週となり、開始を1週早める(従来は函館6週のあと札幌7週)。
これがおそらく既定路線となりそう。すでに厩舎関係者の声も報じられていて、それぞれの立場から賛否両論起きているようです(どうやら下交渉はなかったようで、寝耳に水との不満が多い)。
◆メリットはどこに?
ご存じのように、日本の夏の酷暑化は著しく、生命の危険すら感じさせる高温日が頻出しています。競馬においても酷暑対策は待ったなしの状況であり、また以前にも書いたように国際PART1国として馬と人の安全に率先して対処していく義務もあるため、JRAも迅速に手を打っているという状況は大前提です。ですから今回大ナタを振るうような対策を講じたことついては、なんら批判する立場ではありません。
ただ、今回の施策が現状の対策から大きく進んだものかといわれると、そのメリットをどうにも見つけることができないのです。メリットなし!と言わざるを得ない。
なぜなら、このプランのままでは、ここ2年実施されている暑熱対策「午前開催→3時間の昼休み→午後3時から再開」の午前の部分をカットしただけとしか思えないからです。午前も暑いとはいえ、さすがに午後ほどではないのに、暑熱対策としてそこの施行を止める理由がまず分からない。
しかも、午後3時というまだかなり暑い時間帯にレースをスタートさせるためには、第1Rの準備からパドックを1日の最高気温の時間帯に行わないといけないわけで、暑さ回避にはならない。第2Rにしても似たようなものです。また午後後半はそもそも日盛りの余熱があるので、夕方といっても、日没をすぎないと気温はそうそう下がりません。
大きな改善が全く期待できない施策でありながら、120鞍ものレース数を動かすとなると、そちらの悪影響の方が心配になります。開催日程やレースローテーション、馬の移動経費など、生じる歪みが大きすぎる。3歳未勝利戦を早期に打ち切ることにより、晩成型や春にけがをして休んでいた馬の未来が絶たれてしまう危惧もあります。さらに開催の振り分けが主場になった場合は、ローカルで腕を磨けるはずだった若手騎手の騎乗機会も減ることになるでしょう。
こうした数々の歪みは再来年以降の競馬に大きな影響(影響の好悪は別)を及ぼすはずだし、何よりファンの戸惑いが大きい。
ここまでの弊害を冒してまでやるなら、むしろ開催時刻を早めて、朝8時スタート12時終わりくらいのことをしないと(現実的にはともかく、暑さ対策としてだけのことで言えば、です)、暑熱回避の意味はないと思うのです。
北海道開催の変化は一見大きなことではないようにも思えますが、これにより重賞の名称や施行時期を動かす必要がある上に、新潟や中京開催の変化により北海道デビューが増えることも予測されるので、2歳馬の入厩スケジュールも変わってくるでしょう。そもそも、北海道とて30度超えが普通になってきました。決して暑さに対しノーケアでいい開催ではなくなっています。
もちろん放送媒体にも影響大。大本営のグリーンチャンネルや場内実況局のラジオ日経はいいにしても、それ以外の中継局(特にBSや中波ラジオ局)にはかなり痛手となります。通常開催の函館や札幌を朝から流すとしたら、現地局からの中継使用料がかなり大きな額になるし、またそれをせずに午前の中継時間帯に別番組を流すとしたら、番組編成やスポンサー料などに多大な影響が出ます。時間が替わるから人員の配置を動かせばいいという、単純な話ではないのです。
◆なぜナイター開催ができないのか
暑熱対策というと、必ず出てくるのが「そもそもなぜナイターをやらないのか」という声。確かにそうであり、筆者も理想は1にシーズンオフ、2にナイター開催だと思うのですが、現実の障壁がとても大きいからできないわけです。
昔からナイター開催の最大障壁といわれるのが「近隣住民の反対」。通行騒音、酔っ払い等による治安悪化、ゴミのポイ捨てなどが主なものです。これについては、地方競馬ができているのだから、中央でも可能なはず・・・という声があるし、ことはマナーが最大のテーマなので、啓発により改善の余地はあると筆者も考えます。ひと昔やふた昔前ほど競馬客のマナーが悪くないということもあるし、また特に新潟では競馬場近隣の住居は少なく、こうしたクレームの出る余地は少ないようにも思います。
実はナイター開催ができない理由として大きいのは、これよりも中央競馬固有の物理的なネックなのです。
地方競馬は、各厩舎の多くが競馬場に隣接したエリアに存在するので、レースが終わってからの輸送がほとんどありません。分場にある厩舎にしても、1時間程度の輸送で済みます。しかし中央競馬は関東では美浦、関西では栗東のトレセンに厩舎があるので(もちろんローカル開催の場合は競馬場にも滞在厩舎はありますが、収容頭数に限界があり、また設備面から長期滞在して利用することを望まない厩舎も多い)、終了後数時間かけて輸送しなければならない。となると、ナイター開催の場合は後半に出走した馬たちの帰厩が、日付の替わる時間帯になってしまいます。厩務員は翌朝に担当馬の世話が始まるので、厩舎関係者の労働環境がかなり悪化します。6週間のこととはいえ、猛暑の時期にこれはキツイでしょう。別手当てが出ない(出ても)と割に合わないと傍から見ても思います。
それ以前に、そもそも馬の輸送が困難なのです。多数の馬運車と運転手を遅い時間に確保しなければなりません。それでなくても運転手が減少して人手不足の昨今、深夜業務で今の頭数を捌くことは不可能に近いのです。
さらに中央競馬の場合は、たとえば土曜に新潟で乗り、日曜に札幌で乗るというような騎手も少なくない。この場合、ナイターにしてしまうと新潟札幌間(中京と新潟、札幌も同じ)の移動ができません。
またこれは小さめの問題ですが、新潟競馬場は市街地よりかなり遠隔にあり、近くに駅もなく、観客の移動には直通高速バスが不可欠です。これを夜に確保できるかという問題もあります。ご存じのようにバス業界は人員不足に喘いでいて、しかも地方ということを考えるとなおさら難しいと想像できます。
もちろんできない理由ばかり並べても仕方ないのですが、ただJRAもこれら諸問題には以前から調整を続けていました。しかし解決の糸口が当面見つからないということで、ここ2,3年の大きな改革に踏み切ったということです。
◆そして出口なし・・・
筆者は20年ほど前から、夏競馬の2週間シーズンオフ導入を(暑熱とは別の理由でしたが)主張していましたが、現状の暑さでは2週程度休んでも意味がないこと、そして以前の当連載で述べた国への納付金大幅増額からも、開催を減らす策は通らないでしょう。
となるとやはりナイターがベストなのですが、それもほぼ不可能・・・・。まさに八方ふさがりで、解決策は残念ながら思いつきません。しいていえば前記のように、競輪ではありませんが午前にレースを集中させた「モーニング開催」くらいしか・・・。もちろんこれとて、時間的に現地観戦が困難になることや競馬場内店舗の売り上げ激減、さらに放送媒体でも大きな問題が起きます。どこかが泣かないといけないような案はなかなか難しい。JRAが思い切った補償でもできるといいのですが・・・。
とにかく日本の夏競馬が大きな岐路に立っているのは間違いないところ。筆者も無い知恵を絞りつつ改善案を模索したいと思いますし、またもし今回の新プランが実行されるとして、せめて未勝利馬の問題くらいは解決できないかと年間の施行番組表を睨みつつ、考え続けてみるつもりです。
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