生まれ変わるか凱旋門賞

日本時間10月4日深夜に今年の凱旋門賞が行われ、今年も日本馬にとっては厳しい結果となりました。
この凱旋門賞が、現在欧州では競馬界を二分する論争を巻き起こしています。それは来年から「せん馬(去勢された牡馬)の出走を認める」ことを主催者側が発表したからで、これに対して生産界や一部のファンから猛反対が湧いているのです。
水上学 2026.10.14
誰でも

競馬ライターの水上学です。今回も「水上のニュースレター」をお読みくださりありがとうございます。メルマガ未登録の方は、ぜひ無料での配信登録をお願い致します。

         

■せん馬開放の背景

 欧州の中距離路線最高の格を誇るGⅠ・凱旋門賞。今年が第105回でしたが、一貫してせん馬の出走を認めていませんでした。その理由は「繁殖馬選定を大前提としているから」。つまり凱旋門賞馬を勝つような優れたサラブレッドの血を後世に残すことが、レース施行の目的だからです。

 これに対し、フランスの競馬運営団体フランスギャロの理事会が、凱旋門賞を真の「世界一芝中距離馬決定戦」にするべく、せん馬の出走を認める議事を発案し、これが8月に欧州パターン委員会で正式承認されました。出走開放は「レースの魅力や国際的知名度が高まるため」としているのですが、その背景には2つの理由が隠れていると筆者は考えています。

1つは、近年欧州の芝中距離でせん馬が大活躍していること。去年のジャパンCに来日し日本のファンにも鮮烈な印象を残したカランダガンや、あるいは世界を股にかけて走りまくるゴリアットなどが代表例。彼らを締め出して何が最強馬決定戦かという声が、現地のファンやマスコミの一部から挙がっていました。

 そして凱旋門賞の権威に影が差してきていること。日本では毎年秋になるとここを勝てば世界一かのように盛り上がりますが、欧州ではあくまで数ある古馬中距離GⅠの一環であり、英国のキングジョージⅥ世&クインエリザベスⅡ世Sも負けず劣らずの格を誇るし、その他にもチャンピオンS、インターナショナルSなども遜色ないタイトル戦として位置づけられています。さらに天候不順のシーズンに行われるので雨の影響を受けすぎること、また斤量規定が3歳馬や牝馬にとって有利になりすぎることなども指摘されていて、回避する陣営も少なくありません。

 凱旋門賞が欧州古馬GⅠの中で抜きんでるためには、よりメンバーを充実させたいとフランスが考えるのも当然で、開放することにより欧州だけでなく、せん馬の強豪が多い北米や香港、オセアニアからも馬を呼べるという見通しもあるはずです。そうなれば、レースの権威だけでなく売り上げも大幅に上がるでしょう。伝統や建前よりも、実利を取りに来たという背景があることは間違いないです。

■反対派の主張

 一方、開放反対を強硬に唱えているのが欧州の生産者の一部。2020年の凱旋門賞優勝馬ソットサスを生産したアンリ・ボゾ氏が反対の署名運動を開始、アイルランドに拠点を置く欧州最大規模の生産者クールモアスタッドが追随して同じく署名運動を後押ししたのです。

 彼らの主張は、生産界にダメージが出る=種牡馬の弱体化に繋がるということ、またせん馬の古豪が出ることにより、才能ある3歳馬や牝馬の出走が減ること、そうなればレースに停滞感を醸し出すおそれがあることなどです。

 これに、凱旋門賞は基本的にフランスの馬が勝つべきレース、譲ってもイギリス・アイルランドまでであり、あまり他国のチャンスを広げるようなことはすべきではないという一部の保守的な?伝統を重視する層が絡んで反対の声を挙げているようです。

 ただ、欧州パターン委員会が一度下した決定が覆ることは過去の例からも考えにくく、発表通り来年からは凱旋門賞にせん馬がエントリーすることは、ほぼ確実とみられています。

■筆者の見解&日本に与える影響は?

 筆者の個人的見解としては、近年では牝馬に圧される傾向があって凱旋門賞優勝馬が種牡馬として成功しているとは言い難い状況があるので(09年に勝ったシーザスターズが直近の成功馬と言ってもいいくらい)、生産云々の主張はやや弱いと思います。そもそも、たしかにせん馬が勝っても種牡馬入りはできませんが、それらの父馬が現役種牡馬ならそちらの価値は上がるとも言えるわけですから、説得力に欠けるのではないでしょうか。

3歳クラシックについては日本でもせん馬の出走を認めていない(注)し、若駒ですから繁殖馬選定競走としての意義は大きいと思いますが、古馬に対してもそこを強調するのはナンセンスだと思います。

 また3歳馬や牝馬のエントリーが減るということについては、確かにそういう側面が出てくるかもしれません。ただ、大手の馬主や牧場が格下のラビットホース=引っ張り役を使えなくなる(ラビットホースは格下馬が大半のため、海外からの遠征が増えるとその出走が叶わなくなる可能性がある)という、作戦面でのマイナスを懸念していると勘ぐれないこともないかと・・・。

 視野を広げてみても、ブリーダーズCやキングジョージ、ドバイミーテイングや香港ミーティング、メルボルンC、そしてもちろんジャパンCもそうですが、凱旋門賞以外の古馬大レースはせん馬の出走が可能。凱旋門賞だけが拒否するのは明らかにおかしい。ということで、私は開放に賛成です。

 ただ、開放されると日本競馬にとってはやや痛いことになるかもしれません。というのもカランダガン級、あるいはそれに次ぐせん馬が凱旋門賞に集まってきた場合は、日本馬にとって強敵が増えるわけで、悲願の初制覇がさらに遠のくでしょう。

 また凱旋門賞に出られないからこそ、ジャパンC出走を選んでくれたせん馬の大物もいたわけで、レース間隔が約2ヶ月あるとはいえ、これが減ることは容易に想像できます。ジャパンCの陣容にも影響が出るかもしれません。

 いずれにせよ、おそらく来年から凱旋門賞という一大イベントは出走馬の顔ぶれやレベルにおいてかなり変わるはずです。なかなか八方良しとはならないと思いますが、競馬の本質=競争ならぬ競走原理からすればせん馬開放は正論。今後世界の競馬地図に与える影響も含めて、楽しみに待ちたいと思います。

 注・日本では牡馬三冠、NHKマイルC、ホープフルS、朝日杯FSにはせん馬の出走は認められていません。なお天皇賞は08年に開放されました。ちなみにグレード制導入後は、JRAの平地GⅠでせん馬は5勝しています。

無料で「水上のニュースレター」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

読者限定
どうなる夏の2歳重賞
誰でも
酷暑1週目の競馬に思うこと
誰でも
衝撃の?2027暑熱対策発表
誰でも
長距離GⅠ存続の意義
誰でも
競馬はどう見られているか
読者限定
老舗オーナーズクラブの終焉に思う
読者限定
騎手不足?短期免許の取得条件緩和
誰でも
私選・JRA賞2025競走馬部門