「JRAの取り組みが実ったか?~にわかに活気づく秋の国際競走」

 日本調教馬の海外遠征はこの十数年活気付く一方であり、今年はこれまで遠征例の少なかった北米・ブリーダーズCシリーズにも多数の出走をみました。
 逆に、日本へやってくる外国馬の数は激減。国際競走の看板が泣く事態が延々続いていたのです。それがこの秋はどうしたことか・・・。
水上学 2024.11.13
誰でも

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 ということで、今秋はにわかに外国馬が日本のレースにエントリーするケースが相次いでいます。数だけでなくその質も高く、長年「登録だけでどうせ来ない」とたかを括っていた、私のような荒んだ関係者はただ驚くばかりです。

本論に入る前に、来日予定のラインアップをまとめておきましょう。

11月17日のGⅠマイルチャンピオンシップ

→欧州マイル界現役最強クラスのチャリン(13年ぶりの海外馬参戦。英国馬。今回が引退レース)

11月23日のリステッド・キャピタルS

→後述のゴリアットの帯同馬としてルノマド(23年ぶりの海外馬参戦。仏国馬。重賞未勝利)

11月24日の国際招待GⅠ・ジャパンカップ

→オーギュストロダン(英ダービー、BCターフ、愛チャンピオンS他制覇の世界最強レベル。アイルランド馬。今回が引退レース)

 ゴリアット(キングジョージ&Qエリザベス2世S制覇。仏国馬)

 ファンタスティックムーン(独ダービー、バーデン大賞制覇。独国馬。今回が引退レース)

12月8日の2歳牝馬限定GⅠ・阪神JF

 →メイディレディ(BCJFターフ2着、北米馬。2歳GⅠへの海外馬参戦は史上初)

 まさにJRA国際部にとっては、盆と正月が一緒に来たような騒ぎ(古すぎますね)ではないでしょうか。ただ今回で引退となる馬が多いあたりに、物見遊山になりはしないかという要らぬ心配を一瞬してしまいますが(あ、またしても荒んだ関係者・・・苦笑)。

◆ジャパンCの略史

 ジャパンCはかつて、日本競馬の国際化戦略における橋頭堡的存在でした。世界の一流国に列するために、自国開催の国際競走設立の必要性から、長い準備期間を経て1981年に第1回を施行。当時の「月刊優駿」によれば、最大の関心事は「いったいどこの国から、どのクラスの馬が来てくれるのか」ということだったそう。

予備登録段階ではアメリカの国民的英雄ジョンヘンリー、ケンタッキーダービー馬ジェニュインリスク、北米2冠馬プレザントコロニー、オセアニア最強馬キングストンタウンらが名を連ねており、JRAは手放しの喜びようのコメントを出していました。

 しかしこれらの多くは残念ながら、よく言えば挨拶代わり、悪く言えば冷やかし登録でした。実際に来たのは22勝しているものの、丈夫が取り柄といった戦績で北米牝馬の一流半といった格付けのザベリワンがトップで、あとはカナダ、インド、トルコから、お世辞にも一流バリバリとは言えない馬たちでした。しかもトルコ代表馬デルシムは来日後体調不良で回避。結局3か国計7頭の出走に留まりました。話は逸れますがインド代表馬オウンオピニオンについて「現地では象と調教しているらしい」などという都市伝説?が囁かれたのも懐かしい。そしてこの程度の顔ぶれなら、オールスターキャストで臨む日本馬が、地の利もあるだけに、あっさり勝つのではないかという見方が大勢を占めました。

 しかし、終わってみれば日本の名だたる大レース勝ち馬たちは枕を並べて総倒れ。2分25秒3、当時のJRAレコードで駆け抜けた、無名の北米牝馬メアジードーツの前に完敗してしまいます。日本馬最先着は勝ち馬から0秒5差で、地方競馬から中央転入して活躍していたゴールドスペンサーだったというのも、今から思えばなかなか味わい深いものと言えるでしょう。

 レース直後は「これではもう日本競馬がバカにされて、強い馬は来てくれないのではないか」そして何より「日本馬が勝つには半世紀はかかるのではないか」という悲観論ばかりが覆いましたが、共にあっさりいい意味で裏切られていくことになります。日本馬与しやすしと見たのか、翌年からはせん馬(去勢された牡馬)と牝馬が大半ではありますがビッグネームが続々参戦、また日本馬も、第2回こそ第1回同様、地方からの転入馬ヒカリデュールの5着が最先着ではありましたが、第3回にしてキョウエイプロミスがアイルランド代表スタネーラと大接戦の2着となって希望の灯が点り、そして翌年、第4回にして早々に、人気薄とはいえカツラギエースが逃げ切りで日本馬初制覇を達成することになります。

その後20年くらいは、ジャパンCにとって実に幸せな状況が続きました。日本の最強クラスと、海外のビッグネーム(もちろん峠を越えた馬も多かったですが)が鎬を削り、また6,7ケ国から参戦することも珍しくなく、一時は「世界で最も多国籍の国際レース」と言われて、ここにこそジャパンCの価値があるとされたものでした。

 それが変わってきたのは1998年のエルコンドルパサー、翌年のスペシャルウィークあたりからか。日本馬が勝つことが当たり前になっていき、欧州最強クラスをもってしても勝てなくなってきました。そして2005年のアルカセットを最後に現在まで、外国馬の優勝は途絶えることになります。

 さらに日本の芝の管理技術が急激に向上すると共に、勝ち時計が高速化。欧州の競馬とは別次元の競馬が展開されていることも、敬遠ムードに拍車を掛けたと思われます。これは、現在凱旋門賞における日本馬の敗因と、逆の意味で重なっていることでもあります。

 そんなわけで来日頭数は漸減していき、2019年にはとうとう史上初の外国馬の出走ゼロという事態に。筆者も2010年頃から「ジャパンCはかつての使命を終え、これからは東京2400mにおける3歳馬と古馬が激突する唯一のGⅠとして国内最強馬決定戦の位置付けを打ち出すべし」と折に触れ、持論を展開したものでした。

◆大きかった「馬場内国際厩舎」の設立

 もちろん、JRAも対策を講じようとしてはいたのですが、賞金額を上げるくらいしか方法がなく、手詰まりという感じでした。そもそも、ジャパンCの3週前にブリーダーズCシリーズが1984年北米で、そして1994年には、ジャパンCの2週後に香港国際競走シリーズ(共に1日に数鞍のGⅠが組まれている)という後発の2大イベントがスタートしたことにより馬が分散し、かつ1回の遠征で複数の馬を連れていけるという厩舎にとってのメリットもあり、物理的に如何ともし難い事態が定着したことが、最大の衰退理由だったのです。

 それがなぜ、レーススケジュールも変わっていないのに、ここに来て急に来日活性化となったのか。それはスケジュールと並ぶ大きな問題が解決されたからでした。

筆者もJRAの関係者から話を聞いたことがあったのですが、海外陣営から頻繁に出ていた不満というのが「検疫規定の厳しさ」。それは検査内容よりも動きの不自由さが大きな障壁でした。千葉県白井の競馬学校にある検疫馬房で来日後7日間、缶詰めにされての着地検疫を行い、その後レースが行われる東京競馬場へ入厩。運動不足と度重なる環境変化は、いくら神経が太い馬が多いと言われる外国馬にとっても、ストレスになるという声が多く出ていたそうです。

 それが解消されたのが2022年のこと。ジャパンCが行われる東京競馬場の内馬場、向正面に向かって左手の一角に、数棟の国際馬房を設置したのです。ここで検疫ができるようになり、しかも2日間馬房に留めたのちに、検疫期間内でも、他馬と接触しないことを条件に、馬房の周囲にある1周300mの小さなコースを使っての運動も可能。そして検疫期間を過ぎれば、そのまま東京競馬場のコースを使って調教できるのです。これは、香港やドバイの国際レースと同じ調整ができる環境でもあります。以前に比べるとかなり便利、かつストレスが軽減されることになります。この国際厩舎の評判が広がったのは大きいでしょう。

◆意地悪な見方・日本馬が弱体化した?

 ここまでは、何も私が偉そうに指摘するほどでもなく、競馬に詳しいファンの中にはお気付きの方も多いことかもしれません。ここからは、あくまで筆者の偏見に近い、かなり斜め目線の仮説も挙げておきたいのです。

それは先ほど書いたことと繋がってくるのですが、第1回ジャパンC→第2回ジャパンCで見られた出走馬の質の変化の原因との共通性。もちろん外国勢を迎える日本側のホスピタリティが信頼されたことはあるのですが、前述のように「日本馬与しやすし」の印象を海外に持たれたことと、今の状況が似ているのかもしれない・・・と邪推してみたのです。

 気が付けば日本馬が、海外遠征の芝のレースで意外とこのところ勝てていない。イクイノックスの世界ランキング1位で隠れていますが、彼が引退したことで、それ以外の馬たちなら、馬場の違いはあっても何とかなるという分析を、海外の競馬関係者にされつつあるのではないか、ということです。

 実際はどうなのか、主な芝の海外GⅠにおける、日本調教馬の直近の勝利を並べてみましょう。

 <香港>クイーンエリザベスⅡS→ラヴズオンリーユー(2021)

     チャンピオンズマイル→モーリス(2016)

     香港スプリント→ダノンスマッシュ(2020)

     香港マイル→アドマイヤマーズ(2019)

香港カップ→ラヴズオンリーユー(2021)

香港ヴァーズ→ウインマリリン(2022)

 <ドバイ>

     ドバイターフ→パンサラッサ(2022)

     ドバイシーマクラシック→イクイノックス(2023)

 <北米>

     BCフィリーズメアターフ→ラヴズオンリーユー(2021)

<オセアニア>

     メルボルンカップ→デルタブルース(2006)

     コックスプレート→リスグラシュー(2019)

     コーフィールドC→メールドグラース(2019)

※注・オオバンブルマイが2023年に勝ったゴールドイーグルはノングレイデッドレース

 そしてBCターフやキングジョージ、もちろん凱旋門賞では、まだ勝利がありません。 

 2010年代半ばから21年あたりまでは、ドバイや香港の芝レースで頻繁に勝っていた日本馬が、イクイノックスを別にすればこのところ健闘はすれど勝てていないのは事実。先日のメルボルンCのワープスピード、BCターフのローシャムパークは、かなり惜しいハナ差の2着(特にローシャムは、現役世界芝中距離トップクラスのレベルズロマンスとハナ差)なので、日本馬が弱くなったというのは暴論なのですが、数年前の香港シリーズやドバイミーティングで勝ちまくっていた時期に比べると、勢いが陰っていると海外に捉えられても仕方ない気もします。

 いずれにせよ、日本の競馬ファンにとっては、海外からの優駿が多数来てくれる状況は歓迎すべきこと。ただ24日のジャパンCで、ドウデュースを大将格とした日本勢が完膚なきまでに欧州最強勢を打ち負かすようなことがあれば、また来年から寂しい国際レースになる可能性もないわけではない?まあ理想形としては、日本馬と海外勢が競り合って、白熱した攻防の末に日本馬が勝つという感じでしょうか。これならしばらくは、今年のように強い馬たちが来てくれるかもしれませんね(笑)。

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今回も最後までお読み下さりありがとうございました。なお、皆さんには「思い出のジャパンC」というテーマで、その勝ち馬(あるいは負けていても皆さんにとっては主役だった馬)を教えてください。拝読させていただきます。

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