「看過できない新馬戦除外問題」

全馬デビュー戦となる馬で争われるレースを「新馬戦」といいます。現在、この新馬戦における除外ラッシュが問題となっています。これは今に始まったことではないのですが、今年は特に過酷な状況。出走するまでが大変であり、筆者は公正競馬の根幹にも関わる問題と考えます。

 競馬ライターの水上学です・・・。
水上学 2025.01.22
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◆出たい馬が出られない?

 競馬歴の浅い方の中にとっては、もしかしたら初めてお聞きになることかもしれませんが、競馬のレースは、出たい馬がすべて出ているわけではありません。もちろん出ている馬はすべて出走希望のある馬なのですが、実際にはもっと多くの出走希望馬がいて、それらが抽選などのルールにより除外されて頭数を絞られ、施行コースごとのフルゲート(出走可能頭数)に潜り込めた馬が実戦を迎えるわけです。

 ある程度の除外が発生するのは仕方ないことですが、これが行き過ぎるのは由々しき事態。現在は15頭、20頭の除外はザラで、1月13日の中京、19日の中山では、共に47頭もの除外が出た新馬戦がありました。

出られなかった馬は、一度仕上げながらも出走機会が延びることになるわけですが、それが1回の順延程度ならまだしも、この頭数となると数回の除外を繰り返して、やっとゲートインに漕ぎ着けることも珍しくないという状況なのです。なぜ「由々しき事態」かというと、馬は生き物ですから、出走を待っている間に体調を下げてしまうこともあるし、いつ出られるか分からないという中でどこまで馬を仕上げていいのか、騎乗者の手配をどうするのかといった問題も絡んでくるので、「どの馬もそのレースに向けて仕上げられた中で全力を尽くす」という、公正競馬の原則が揺らいでしまう事態を招くことになるのです。

もちろん、こうした除外を緩和するためのルールはあります。競馬のレースには、獲得賞金や年齢、性別などによるクラス分けがあり、各クラスによって除外のルールは異なります。そのすべてに触れるとたいへんな分量になるので、今回はあくまで新馬戦に絞ります。

◆現行の新馬戦の除外規定は?

 まず、そのレースへのすべての登録馬から、無作為に5頭抽選します。この5頭は出走が確定となります。

 次に、その5頭以外の馬の中から、すでに以前除外されたことのある馬を、除外された回数順に並べます。多い順に優先出走権を得ることになります。もし除外回数が同じ馬が多数いる場合は、その馬たちでまた抽選となります。

 ただし、最後に除外された時から遡って2か月以上前の除外は順次、毎週1つ消滅していきます。

 これだけ細かい規定がありながらも、現在は優先出走権持ちの馬で溢れかえっていて、抽選に次ぐ抽選を毎週繰り返しているわけです。中には運悪く2か月間外れ続けると、また1からやり直さなければならない馬も出てきます。

デビューすらままならない状況、しかも3歳1月時点でこうなのですから、4月に始まるクラシックレースへの出走など不可能です。目標を切り替えるしかなくなってしまうわけですが、生産牧場やオーナーにとってはやり切れない思いでしょう。

 さらに事態を深刻にしているのは、レースに出られればなんでもいいというわけではない、ということです。たとえば、芝の中距離に適性のある馬が、ダートの短距離や芝の短距離の新馬戦しか組まれていない週に登録することはできない(ルール上は可能ですが)、ということ。だから、出られるチャンスは単なる数学的確率以上に実質は狭き門となるわけです。

今年は、出走機会を求めて既走馬に混じって未勝利戦でデビューするケースも増えてきました。もちろん素質の高さで勝つケースもありますが、基本的にはレース経験の有る方が有利ですから、不利を承知でデビューさせることになります。これも健全な状態とは言えないでしょう。

 この時期に新馬戦出走が狭き門となる現象は、毎年見られるものではあります。その背景には、あと1か月半で新馬戦が終了するために、その前にどうしても出走させたいという陣営が多いこと、そして基本的に12月最終週から1月3週目までが2場開催であることがあります。今年の場合そこに拍車を掛けているのは、ここは推測ですが、昨夏の猛暑のために、夏場から秋口にかけての2歳馬の仕上げが遅れがちになったこともあると思います。

 そして最も決定的なのは、在厩馬の滞留。2022年(現3歳馬)のサラブレッド生産頭数は、10年前に比べるとなんと約1000頭(!)も増えているのです。もちろん近10年では最多。もちろんこれらがすべて中央競馬に入っているわけではないですが、年々滞留馬が増えていることは間違いありません。

◆緩和策はないのか?

 JRAや競馬マスコミは、この状況を憂慮しつつも、年末から1月までの一過性のことなので、抜本的な手を打つ必要はないと考えているようです(そうコメントしている記事も見ました)。

ただ2歳のうちに、しかもなるべく早い時期に出走を誘導する施策がこの10年来採られてきてのこの状態であり、生産頭数の増加や猛暑は当面続くことが濃厚。ファンが少しでも安心して馬券を買えるために、そして1頭でも多くの馬が春競馬で夢を見ることができるようにするために、やはりJRAは改善策を打つことが必要ではないでしょうか。

単純なことですが、即効性のある解決策は新馬戦を増やすことです。これには2つの方法があります。まずは1日のレース数を増やして、増やした分を新馬戦に振り向けることですが、これには農林水産省令の改正が必要になります。となると、時間がかかるし、法を動かすという面倒、さらに現場の労働時間が延びるだけに労組との兼ね合いもあるでしょうし、そのあたりを考えると及び腰になるのも分からないことはない(それでもやってほしいとは思いますが)。

 ならばレースを増やすために次に考えられるのは当然、他のクラスのレースを新馬戦に替えること。これはJRAの一存でできます。ただ、その分他のクラスが減るわけで、今度はそちらのクラスに影響が出かねないため、登録頭数を比較した上で進める必要があります。

 その参考として例を挙げておきましょう。この1月3週目の未勝利戦の除外頭数を見ると、その大半が10頭以下であり、中には18日中山のように2,3頭というケースもありました。これなら、未勝利戦を週にひとつ減らして、その分を新馬戦にするのも無理筋ではないでしょう。その場合は中京や中山で47頭の除外を出した芝1600ⅿの新馬戦とする。これだけでも、かなりの頭数が救われることになります。

 競馬に限ったことではありませんが、問題が起きた際にはまず対症療法で止血し、並行して完治のための長期的療法が必要となります。そして目下の除外頭数の異常さをみれば、もう即効性のある対症療法が待ったなし。ここに、もし開催日に降雪があって中止、あるいは順延などが来たら、目も当てられません。

1月25日からは小倉開催が始まって、久しぶりに3場開催となるので緩和はされるのでしょうが、関東馬にとっては小倉でデビューさせるのは経費的、あるいは出張馬房確保の面でハードルが高く、関西はともかく関東での状況はさほど改善されないと思います。JRAは来年以降の冬季の新馬戦のレース数について、ぜひ手を打ってほしい。それがファンサービス、春の3歳戦の馬質向上、馬主の不満解消に繋がるのですから。

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